WINEな時間。

藤巻暁(ふじまき・あきら)
アカデミーデュヴァン講師。30年以上に渡るワインの経験とソムリエとしての豊富な知識を持ち、現在は東急百貨店「THE 」のシェフソムリエとしてテイスティングカウンターに立ち、ワインの案内役を務める。各所でセミナー講師としても活躍中。
道具は、買って終わりじゃない
「これ、まだ途中なんですよ」
藤巻さんが取り出したソムリエナイフは、よく見ると普通のものとは少し違いました。ビールの王冠を開けるための栓抜きは、30年以上一度も使わなかったため削り落とされ、角は丸く磨かれています。
「指をかけるとまだ痛いんですよ。だから、また削るんです」
使って、削る。また使って、少し削る。納得できるまで、その繰り返しです。そうして少しずつ、自分の手になじむ一本になっていきます。

抜栓は、技術であり、積み重ね
「抜栓は、かなり勉強しました」
どうすればもっと美しく開けられるのか。どうすればコルクを傷めず、ワインへの負担も少なくできるのか。その答えを探し続けた結果、日本中のソムリエが藤巻さんのもとへ抜栓を学びに訪れるようになりました。企業から抜栓方法の動画制作を依頼されることもあったそうです。
「自分で言うのもなんですが、抜栓はうまいです(笑)」
冗談めかして話しますが、その言葉を裏づけるだけの経験と技術がありました。
世界に一本しかない、“一本足”のコルク抜き
バッグからもう一つ取り出してくれたのは、片側だけの刃を持つ、少し変わったコルク抜きでした。一般的な二枚刃では入らないほど太いコルクにも対応できるよう、自ら一本足に加工した特別仕様です。
「たぶん、世界で一つしかないと思います」
一般的なスクリュー式のようにコルクへ穴を開けず、刃を差し込んでゆっくり押し上げるため、古いワインや傷みやすいコルクにも使えます。出番は多くありません。それでもバッグに入れているのは、“もしもの一本”にも最善を尽くしたいからです。
ワインだけじゃない、道具も追い続ける
取材中、シャンパンサーベルや打栓機が並ぶと、思わず「武器みたいですね」という声が上がりました。
「拷問器具みたいでしょう(笑)」
そう笑いながらも、それぞれの用途を丁寧に説明してくれる藤巻さん。新しいワイングッズが発売されれば真っ先に試し、メーカーや輸入元からも「ぜひ使ってみてください」と新製品が届くほど、この世界では道具の目利きとしても知られた存在です。
もっときれいに。もっとスムーズに。
一本のワインを開ける、その数分のために、試し、磨き、また試す。その積み重ねは、今も変わることはありません。
一本のワインは、一本の抜栓から始まる
ワインを開ける時間は、ほんの数分。けれど、その数分のために藤巻さんは30年以上、道具を磨き続けてきました。
削る。試す。また削る。
そうして積み重ねてきた工夫は、お客様には見えないかもしれません。それでも、その見えない積み重ねがあるからこそ、一本のワインは気持ちよく開き、そのおいしさを余すことなく楽しめる。
その一杯は、そんな見えない仕事の先にありました。



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この記事を書いた人

THE WINE 編集部
ワイン初心者です!THE WINEのベテランソムリエたちへのインタビューを通してワインのことを日々勉強中…。


