WINEな時間。

藤巻暁(ふじまき・あきら)
アカデミーデュヴァン講師。30年以上に渡るワインの経験とソムリエとしての豊富な知識を持ち、現在は東急百貨店「THE 」のシェフソムリエとしてテイスティングカウンターに立ち、ワインの案内役を務める。各所でセミナー講師としても活躍中。
「自分がおいしいと思ったかどうか。それがいちばんです」
東急百貨店 THE WINEのシェフソムリエ・藤巻暁さんに、休日、自分のために選ぶワインをうかがいました。ソムリエ歴30年以上。選んでくれた7本に共通していたのは、価格でも肩書でもない、「おいしい」という実感でした。
「好きな一本」を決めない理由
「『好きなワインは?』って、実はいちばん困る質問なんです」
そう言って藤巻さんは笑います。
その日の料理や季節、一緒に飲む人によって、飲みたいワインは変わるもの。だから、「これがいちばん好き」と決めることはほとんどないそうです。その時々で飲みたいものを選ぶ。それが自然だといいます。
毎年、必ず飲みたくなる一本
それでも、毎年楽しみにしているワインがあります。山梨県のワイナリー〈ボー ペイサージュ〉です。
「リリースされると、やっぱり飲みたくなるんですよね」
昔は海外のワインを飲むことが多かったものの、近年は日本ワインのおもしろさをあらためて感じているといいます。気候や土壌だけでなく、造り手との距離の近さも、日本ワインならではの魅力。その中でも〈ボー ペイサージュ〉は、毎年手に取りたくなる特別な存在です。
「きどった食事がなくても、たとえばパンとバターだけでも十分満足できます」
料理が主役というより、その日の主役がワインになる。そんな一本です。

焼肉に、思い込みはいらない
焼肉には赤ワイン。そんなイメージがありますが、藤巻さんは「どちらもおすすめです」と、赤とオレンジ、二本のワインを挙げます。
一本は、〈フアン ヒル〉シルバー・ラベル(ドセ・メセス)。甘辛い焼肉のたれと驚くほどよく合う一本です。
「知り合いの焼肉店にすすめたら、毎月2ケース買ってくれるようになって」
あまりにも気に入ってくれて、それなら直接インポーターから仕入れた方がいいと紹介したほど。藤巻さんにとっても思い入れのあるワインです。
もう一本は、〈ラ ビアンカーラ〉マシエリのオレンジワイン。こちらは、ごま塩や塩だれで食べる焼肉と好相性。果皮由来のほのかな渋みが肉の旨みを引き立て、赤ワインとはまた違うおいしさを楽しめます。
「バーベキューの手土産にもいいですよ」
料理に合わせてワインを選ぶのではなく、“この料理には、この一本が飲みたい”と考える。その発想が、藤巻さんらしいワインの楽しみ方でした。
ご購入はこちら〈ファンヒル〉シルバーラベル
(スペイン・フミーリャ/赤/750ml)〈税込〉2,970円
値段では、おいしさは決まらない
印象に残っている一本として挙げてくれたのは、ドイツのピノ・ノワール。ブラインドテイスティングでは、「かなり高価なワインだろう」と予想したそう。しかし、価格を知って驚きました。
「値段だけでは、本当にわからないですね」
高いからおいしい、有名だからおいしい。そんな思い込みは、時々気持ちよく裏切られます。
「だからこそ、ラベルや価格にとらわれず、自分がおいしいと思えるかどうかを大切にしたいんです」
その一本は、藤巻さんにあらためて「自分の舌を信じること」の大切さを教えてくれました。
ご購入はこちら〈ベルンハルト コッホ〉シュペートブルグンダー フォン レス
(ピノ・ノワール/赤/750ml)〈税込〉3,300円
知らない産地ほど、もっと飲んでみたい
ぜひ試していただきたいのが、カナダ・ノバスコシア州のワイン。実際に飲んでみて、そのおもしろさに驚いたという藤巻さん。まだ日本では流通が少なく、あまり知られていない産地だからこそ、「もっといろいろ飲んでみたい」と興味は広がります。
有名産地だけでなく、新しい土地や造り手にも目を向ける。その好奇心が、30年以上ワインを学び続ける原動力になっています。
ご購入はこちら〈ベンジャミン ブリッジ〉ノヴァ 7
(カナダ・ノバスコシア/オレンジ/750ml)〈税込〉3,960円
なかなか出会えないからこそ、忘れられない
「昔からずっと好きなんです」
藤巻さんがそう話すのが、スイス・ヴァレー州の生産者、ジャン・ルネ・ジェルマニエ氏が造るワインです。スイスは良質なワインの産地でありながら、生産量の多くを国内で消費するため、日本ではほとんど見かけません。
「実際に飲んで、自分の口にすごく合ったんです」
以来、1990年代のヴィンテージを今も大切に保管するほどのお気に入り。生産者が東急百貨店を訪ねてくれたこともあり、その一本は、味わいだけでなく、人とのつながりも思い出させてくれる存在になっています。
ご購入はこちら〈ジャン ルネ ジェルマニエ〉プティット アルヴィン 2022
(スイス・ヴァレー/白/750ml)〈税込〉7,370円
ブルゴーニュだけが、シャルドネじゃない
「ブラインドテイスティングで出すと、みんな『すごいワインですね』って言うんです」
藤巻さんがそう話すのが、ニュージーランドのシャルドネです。テイスティング会では、高価なブルゴーニュだと予想されることも少なくありません。ところが正解は、約7,000円のニュージーランドワイン。「こんなにおいしいのに、この価格なんですか!」と驚かれるそう。
「この香りや味わいは、もっと高価なワインにも引けを取りません」
有名産地という先入観を外してみると、新しいおいしさに出会える。そんな一本です。
ご購入はこちら〈チャーチロード〉グラン リザーヴ シャルドネ 2021
(ニュージーランド・ホークスベイ/白/750ml)〈税込〉7,150円
ワインは、人が造るもの
藤巻さんがワインを選ぶとき、味わいと同じくらい意識するのが、造り手です。
「どんな人が、どんな思いで造っているのか。それが分かると、ワインの見え方も変わるんです」
実際に生産者と話をすると、「やっぱりこういう人が造るワインなんだ」と感じることも少なくないそう。一本のワインの向こうには、人がいて、その人の哲学があります。だから藤巻さんは、産地や価格だけでなく、その背景にも惹かれるのです。
自分がおいしいと思ったかどうか
いろいろなワインについて話を聞いてきましたが、最後まで変わらなかったのは、その選び方でした。
「自分がおいしいと思ったかどうか。それがいちばんですね」
30年以上ワインと向き合ってきたソムリエが、最後に信じるのは、肩書でも、価格でも、誰かの評価でもありません。「自分がおいしい」と思えた一本を選ぶ。その基準は、とてもシンプルでした。


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この記事を書いた人

THE WINE 編集部
ワイン初心者です!THE WINEのベテランソムリエたちへのインタビューを通してワインのことを日々勉強中…。







