WINEな時間。

「好き」から始まる、ソムリエの話。 東急百貨店 THE WINE シェフソムリエ・藤巻暁さんに聞く、ワインとの向き合い方

「好き」から始まる、ソムリエの話。 東急百貨店 THE WINE シェフソムリエ・藤巻暁さんに聞く、ワインとの向き合い方

「教科書は、お経みたいなものでした」。


そう振り返るのは、東急百貨店 THE WINEのシェフソムリエ・藤巻暁さん。ワインとの出会いから、独学で挑んだ資格試験、味覚や香りを磨く日々まで。30年以上ワインと向き合ってきた藤巻さんに、ソムリエという仕事と、「好き」から始めるワインの楽しみ方を聞きました。

2026.07.18
藤巻暁(ふじまき・あきら)

藤巻暁(ふじまき・あきら)

アカデミーデュヴァン講師。30年以上に渡るワインの経験とソムリエとしての豊富な知識を持ち、現在は東急百貨店「THE 」のシェフソムリエとしてテイスティングカウンターに立ち、ワインの案内役を務める。各所でセミナー講師としても活躍中。

ワインは、最初から好きだったわけじゃない

藤巻さんがワインと出会ったのは、大学時代にレストランでアルバイトを始めたことがきっかけでした。仕事で必要だから、本を買う。でも、読んでも頭に入らない。

「興味のないものを、無理やり覚えようとしている感じでした」

今の姿からは想像できない言葉です。転機になったのは、一本のフランスワイン。銘柄は覚えていない。産地も覚えていない。それでも、「これはすごいものなんじゃないか」と思った感覚だけは、今も鮮明に残っているそうです。

「それまでいろいろ飲んできた下地があって、その一本で一気におもしろくなったんです」

好きになろうとして好きになったわけではない。飲み続けた先で、ワインのおもしろさに出会った。

教科書は、「お経みたい」に覚えた

ソムリエ試験は、ひたすら覚えることの連続でした。産地。品種。醸造法。ヴィンテージ。

「教科書はほとんど丸暗記でしたね」

電車でも読む。家でも読む。

「お経ですよ(笑)」

肩書から想像するより、ずっと地道な時間がありました。

「小学校の通学路の匂い」は、人には伝わらない

「ワインを言葉にしてください。」
実は、それはとても難しい注文です。

「小学校の通学路で感じた匂い、みたいな記憶ってありますよね。でも、それって人には伝わらない」

だから、ソムリエには共通言語があります。「白い花」「カシス」「柑橘」──。香りを、誰かに伝わる言葉へ翻訳する。それもソムリエの仕事です。

味覚は鍛えられる。でも、それだけじゃない

「ソムリエって、舌が特別なんですか?」

そんな質問に、藤巻さんは少し考えて答えます。

「味覚は鍛えられます。でも、スポーツや音楽と同じで、持って生まれた感覚もあると思います」

経験を重ねることで違いはわかるようになる。一方で、微細な違いを感じ取り、記憶し続ける力には個人差もある。だから今日も飲み、比べ、記憶する。終わりのない積み重ねです。

ワインより先に、「人」を見ている

新しいワインに出会ったとき、藤巻さんがまず知りたいのは産地でも価格でもありません。

「造り手の哲学ですね」

どんな考えでワインを造っているのか。どんな思いを持って畑に立っているのか。実際にワインを飲み、生産者と話すことで、その一本の背景が少しずつ見えてくるといいます。

「『やっぱりそういう人なんだ』と思うことがあります」

一本のワインは、その人自身を映しています。だから藤巻さんは、ワインの向こう側にいる人を知ろうとします。

ワインが、人を連れてきてくれる

「この仕事のいちばんの魅力は?」

少しも迷わず返ってきたのが、この答えでした。

「人との出会いですね」

生産者。料理人。お客様。

ワインがなければ、一生出会わなかったかもしれない人たち。一本のワインから会話が生まれ、その先に新しい縁がつながっていく。

「普通に仕事をしていたら、会えなかった方ばかりです」

そう話す藤巻さんの表情から、この仕事への愛着が伝わってきました。

「好き」で、十分なんです

最後に、ワインに興味はあるけれど難しそうだと感じている人へメッセージをお願いしました。返ってきたのは、とてもシンプルな言葉でした。

「ビールだったら、『これが好き』って普通に言いますよね。ワインも同じでいいと思うんです」

ワインというだけで、「詳しくなってから」「知識を身につけてから」と構えてしまう人は少なくありません。でも藤巻さんは、もっと気軽に楽しんでほしいと言います。
最初から、自分の好みがわかる人はいません。ビールもいろいろ飲むうちに好きな銘柄が見つかるように、ワインも一本ずつ試していけば、自然と「これが好き」が見えてきます。
そして、おいしいと思った一本に出会えたら、ラベルやボトルをスマートフォンで撮っておくこと。

「その写真をワインショップで見せて、『これがおいしかったです』って伝えればいいんです」

すると、お店のスタッフは、そのワインに近い味わいや産地、品種の一本を提案してくれます。

「そうやって少しずつ、自分の好きなワインが見つかっていくと思います。参考になれば」

産地を知らなくても。
品種を覚えていなくても。
「おいしい」と思えた一本を、覚えておく。

その一本が、次の一本につながっていく。ワインは、知識からではなく、「好き」から始めればいい。
30年以上ワインと向き合ってきたソムリエの言葉は、そのことを静かに教えてくれました。

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この記事を書いた人

THE WINE 編集部
THE WINE 編集部

ワイン初心者です!THE WINEのベテランソムリエたちへのインタビューを通してワインのことを日々勉強中…。